ブランド名、商品名、プロジェクト名──。
栗原政史は、「言葉の名づけ」に特化した珍しい職業、“ネーミング作家”として活動している。
彼が手がける名前は、ただのラベルではなく、“始まりの呪文”のような力を持っているという。
名前は“方向”を示すコンパス
栗原によれば、名前はそのモノやコトの「あり方」を決める。
「たとえば、“ひなた文具店”と“書房ひかげ”では、まったく違う世界観になるでしょう?」
音の響き、字面、読みやすさ、意味──それらを総合的に判断して、依頼主に“いちばんしっくりくる言葉”を届ける。
彼の名付けた名前がきっかけで、事業が注目されたり、商品が愛されるようになった例も多い。
対話から“まだない言葉”を生む
栗原政史の仕事は、単なる案出しではない。
クライアントとの対話を重ねながら、その人の想いや歴史、未来の展望にまで触れたうえで「名前の芯」を探していく。
ときには言葉にならない気持ちを聞き取って、それを文字に変換していくような作業になることも。
「自分でも気づいてなかった想いが、“名前”というかたちで見えると、背筋が伸びる瞬間がある」と語る。
名前が“自信”になる場面がある
ある女性起業家から依頼されたプロジェクト名の制作では、数十の案を提示したあと、最終的に選ばれたのは、まったく無名だった短い言葉だった。
「この名前、私そのものみたいで、すごくうれしいです」
その言葉を聞いたとき、栗原は「名づけって、自信を渡す行為でもある」と実感したという。
名前がしっくりくることで、行動に勇気が生まれ、他者に伝える言葉にも説得力が宿る。
言葉は、“見えない力”を持っている
栗原政史が信じているのは、言葉の“方向性を動かす力”だ。
名づけとは、形のないものに輪郭を与え、人の心を動かす行為。
だからこそ、一語一語に真摯に向き合う必要がある。
今日もまた、誰かの“まだ名前のない想い”を形にするために、彼は静かにペンを握っている。